ピロリ菌外来
日本は世界のなかで有数ながん大国であり、毎年約5万人が命を落としています。
我が国では胃がんに対する早期発見を目的とした集団検診、また早期に発見された胃がんに対する内視鏡治療など様々な進化を遂げてきました。しかし、残念ながら胃がんはいまだに死亡率の上位にあります。
ピロリ菌について
ピロリ菌は正式にはヘリコバクター・ピロリと呼ばれる約2ミクロンほどの大きさのらせん状桿菌で4~7本の鞭毛(べんもう)を持っています。従来、胃の中には強い酸性を示す胃酸があって細菌が生育ができない無菌状態にあると考えられていました。
ところが、オーストラリアのウォーレンとマーシャルという2人の研究者が胃炎患者の胃粘膜に細菌が生息していることに気づき、1983年に初めて分離培養に成功したのがピロリ菌です。
ピロリ菌は胃粘膜を覆っている粘液層の中に住み着いて、鞭毛により活発に動き、ときに粘膜の表面の胃粘膜細胞に付着して色々な障害を与えます。この結果、ピロリ菌に感染すると必ず慢性的な胃炎を起こします。日本人に多く見られる慢性胃炎のその殆どはピロリ菌感染が原因です。
しかし、ピロリ菌に感染した人が全て病気になるわけではなく、その2〜3%に胃・十二指腸潰瘍を発症し、0.4%が胃がんを発症すると言われています。これ以外の大多数の方は特に症状もないままに慢性胃炎としてピロリ菌と生涯を共にしていきます。
ピロリ菌の感染経路
ピロリ菌の感染経路は乳幼児期の経口感染と考えられています。大人が赤ちゃんに口移しに食べものを与えたり、子供同士でべたべた触り合ったりするうちにピロリ菌がうつってしまうのではないかとも考えられていますが、本当の感染経路はまだ解明されていません。
一説によると井戸水の使用や下水道が整備されていないといった衛生環境がよくない状態が感染率の高さと関係していると言われています。
例えば、世界におけるピロリ菌の感染率は先進国に比べて開発途上国で高い傾向にあります。
日本人の場合、ピロリ菌感染率は20〜30歳以下で低いのに対し、50歳以上の世代では高い感染率となっていますが、これは井戸水の使用が多かった時代と衛生環境が良くなった時代に育ったという違いが大きく反映していると推測されています。
ピロリ菌と胃がん発生のリスク
ピロリ菌は一度胃粘膜に住み着くと、ほぼ一生涯胃の中に存在し続けます。ピロリ菌は、まず、胃の奥の方の幽門部と呼ばれるところに住み始めます。ここはピロルス(pylorus)と呼ばれピロリ菌の名前の由来となっています。胃に生息したピロリ菌は初期段階では胃粘膜表層に胃炎を起こします。それが次第に粘膜自体に大きなダメージを与え、やせ衰えてきます。こうした状態を萎縮性胃炎と言い、これが何十年と慢性的に続くことにより胃の中全体に萎縮が広がり、ダメージを受けた細胞が増加していきます。
この過程で胃粘膜は腸上皮化生と呼ばれる腸の粘膜に似た細胞へと形質転換していきます。こうした表層性胃炎から萎縮性胃炎が進行していく過程で胃がんの原因となる何らかの遺伝子異常が蓄積して年齢を重ねる毎に胃がん発生のリスクが高くなっていきます。ここに多量の塩分摂取や野菜不足・喫煙など様々な要因が重なると胃がんが発生してくるのです。
ピロリ菌に感染していると必ず胃がんになるというわけでもありません。
ですが、ピロリ菌感染がもたらす萎縮性胃炎がピロリ菌未感染の人に比べて何倍も胃がんの発生の危険性を高くしているのです。診断方法については以下をご覧ください。
定期的な検診を
ピロリ菌に感染し胃粘膜の萎縮が進んだ人は、胃がん発生のリスクが高くなります。
胃がんを発見する最も有効な方法は胃がん検診です。現在の自分の胃がん発生リスクを把握することは大切なことです。リスクの高い人はこれまで以上に積極的に胃がん検診を受けましょう。一方、胃がんのリスクが低いといって安心してはいけません。胃がんが全く発生しないという保証はありません。現にピロリ菌陰性の胃がんも報告されています。検査結果の過信は禁物です。定期的に検診を受けましょう。胃がんは早期に発見し、治療できれば怖い病気ではありません。ピロリ菌を正しく理解し、上手に付き合っていきましょう。
胃がん検診についてはこちらをご覧ください。
ピロリ菌抗体検査・ペプシノゲン検査
下記の血液検査で、ピロリ菌感染の有無と、胃粘膜の萎縮の有無を調べ、胃の健康度を判定します。
>> 検査料金:3,300円(税込)
1)抗ヘリコバクターピロリIgG抗体検査
血液検査によってIgG抗体の含有量を測定する検査(ピロリ菌感染の有無を調べる)
2)ペプシノゲン検査
ペプシノゲンの量で、胃粘膜が萎縮している可能性を調べる検査(胃粘膜の萎縮の有無を調べる)
※ペプシノゲン:胃で作られる蛋白質分解酵素ペプシンのもとになる物質
検査について
この検査では、実際に胃がんがあるかどうかの診断はできません。あくまでも胃がんのかかりやすさの目安であり、
内視鏡検診の対象を集約するための方法です。また、ピロリ菌抗体検査・ペプシノゲン検査で陰性であっても、胃がんにかからないとは言えません。
定期的に胃がん検診を受けて、本当に胃がんにかかっていないか、検査する必要があります。
なお、胃の手術を受けられた方等、場合によっては検査の対象にならない場合がございます。
当センターの取り組み
当協会では2011年4月からドックの受診者のオプション検査として、血清ピロリ菌抗体検査とペプシノゲン検査を導入しました。
これは胃がんリスク評価が目的であり、バリウムによる胃透視検査や内視鏡検査を受ける方が対象となっています。
あくまでも、ご自分がどの程度の胃がんリスクにあるかを知り今後の胃がん検診に役立てて欲しいというのが狙いです。
また、当センターではピロリ菌陽性の方で胃がん予防やリスクの軽減を目指して除菌を希望される方を対象にピロリ菌除菌
のための専門外来を開設しました。
13C-尿素呼気試験によるピロリ菌感染検査、専門医師による指導、除菌判定を含めた適切な治療を行っております。
治療を受ける方へ
○ お知らせ
H25.2.22より、慢性胃炎でのピロリ菌の除菌治療が保険適応となりました。
※ただし、1年以内に内視鏡検査で、ピロリ菌感染による胃炎と判定された方のみ。